開業時の業務の選び方
行政書士が扱える書類は数千種類とも言われます。開業の成否は、どの業務を選ぶかで大きく変わります。運営者2人の考え方は少し違いますが、どちらも「選んだ業務で、ご依頼を受ける仕組みを作る」ことでは一致しています。
Key pointsこの記事の要点
- 「なぜその業務をやるのか」を大切に。行政書士法の範囲なら、既存の分野にこだわらなくてよい
- 市場の大きい業務は選ばれる理由を用意し、ニッチな業務は探す人がいるかを確かめる
- 毎年続く業務につながる分野を選ぶと、売上が積み上がる
- 最初は2〜3にしぼって集中し、派生した依頼は逃げずにこなす
- 業務の小分け、やらないことの決定、時流と経歴の活用も手がかりに
「何をやるか」より「なぜやるか」
「どんな業務を選べばいいですか」と聞かれたら、私はいつも「あなたがいちばんやりたいことをやればいいのでは」と答えています。やりたいことがあって、わざわざ行政書士の資格を取ったはずだからです。建設業許可がよく扱われる業務だからといって、それをやりたくて行政書士になったのでなければ、無理に選ぶ必要はありません。
行政書士の業務として確立された分野に、自分を当てはめる必要もありません。行政書士法と、ほかの士業の法律に反しないことさえ確かめれば、やりたいことを業務にしてかまいません。そのためにも、行政書士法を正しく理解しておくことが欠かせません。
運営者 齋藤(東京・銀座)やりたい分野がビジネスとして成り立つかは、やってみなければわかりません。本気でやりたいことなら、成り立つように仕組みを作り、そこに投資する。それが、業務を選んだ後にやるべきことです。
市場の大きい業務か、ニッチな業務か
| 市場の大きい業務 | ニッチな業務 | |
|---|---|---|
| 例 | 建設業許可・会社設立・相続・自動車の手続きなど | 特定の業界の許可、新しい制度の手続きなど |
| 良いところ | 探している人が多く、ご依頼を受けやすい | 競争が少なく、専門家として名前を覚えてもらいやすい |
| 気をつけること | 競合が多く、ベテランや大きな事務所と比べられる。価格の競争に巻き込まれやすい | 小さすぎる市場は、そもそも探す人がいない。検索の数も確かめる |
市場の大きい業務は、時がたつと参入する人が増え、報酬が下がっていきます。会社設立は、新しい会社法ができたころは15万円ほどの報酬で依頼がありましたが、今は税理士や民間のサービスが無料に近い形で受けることもあり、それだけで事務所を支えるのは難しくなりました。
市場の大きい業務を選ぶなら、「地域+業務」でしぼる、ほかにない強み(経歴・対応の速さ・料金の示し方など)を打ち出すなど、選ばれる理由を必ず用意します。
毎年積み上がる業務を選ぶ
運営者の渡邉がすすめるのは、一度のご依頼で終わらず、毎年続く業務につながる分野です。たとえば建設業許可は、許可を取った会社が毎年、決算の届出(決算変更届)を出します。
| 年 | 新規の許可(月2件×15万円) | 決算変更届(年3万円×許可を取った会社) | 年の売上 |
|---|---|---|---|
| 1年目 | 360万円 | - | 360万円 |
| 2年目 | 360万円 | 24社×3万円=72万円 | 432万円 |
| 3年目 | 360万円 | 48社×3万円=144万円 | 504万円 |
| 5年目 | 360万円 | 96社×3万円=288万円 | 648万円 |
※考え方を示すための計算例です。実際には、更新・変更届・経営事項審査などの業務も加わり、廃業などで減る会社もあります。
新しいご依頼の件数が同じでも、続く業務が年々積み上がっていきます。単発の業務だけの事務所は、毎年ゼロから売上を作り直すことになります。業務を選ぶときは、その先に続くお付き合いがあるかも考えてみてください。
最初は2〜3の業務にしぼり、派生した依頼は逃げない
開業したばかりのころは、仕事が来なければ始まりません。運営者の渡邉は、最初の1〜2年を次のように進めました。
- 仕事が取れそうな業務を2〜3選ぶ立地や競合を調べ、たとえば「相続と会社設立」「建設業と産業廃棄物」のように組み合わせます。
- 実務の知識を先に押さえ、集中して集客する選んだ業務に、ホームページや広告の力を集めます。
- お客様から派生した依頼は、経験がなくても逃げない紹介や「ついでにこれも」という依頼は、調べて、役所に確認しながらこなします。
他士業からは「行政書士ならどんな許認可でもやってくれる」と思われていることもあります。経験がないからと断り続けていると、成長も、紹介のつながりも生まれません。ただし、要件の判断が難しい業務を知識の乏しいまま受けるのは危険です。自分には難しいと感じたら、その分野を専門にしている先輩に紹介するのも、立派な対応です。
業務を「小分け」する発想
新しいニッチを探すより、今ある業務を小分けにして売るほうが、需要がはっきりしている分、うまくいきやすいことがあります。
- 株式会社の設立の手続きのうち、電子定款の作成だけを受ける
- 許可の申請のうち、要件の診断だけを受ける
- 相続の手続きのうち、戸籍の収集と相続関係説明図の作成だけを受ける
運営者の事務所でも、電子定款だけを受けるサービスを始めてから、多くのご依頼をいただきました。売り方や見せ方を変えるだけで、お客様の求めるものにぴったり合うことがあります。
何をやらないかを決める
長く続けてきて思うのは、何をやるか以上に、何をやらないかが大事だということです。手間がかかりすぎる業務、利益の出にくい業務、仕上がるまでに時間がかかりすぎる業務は、依頼が来るとわかっていても、自分の事務所では受けないと決めてきました(ほかの事務所を紹介するなどして、お客様が困らないようにはします)。それが、今の安定した形につながっています。
運営者 渡邉ただし、何をやらないかを決めるには、一度いろいろな業務を経験してみることも必要です。開業当初はさまざまな仕事をこなし、自分に合う業務に少しずつ重心を移していく。その順番が、無理のない業務の選び方です。
時流と、自分の経歴を手がかりに
- 時流:人手不足(外国人の雇用)、高齢化(相続・介護の事業)、法改正、業界の担い手の世代交代(事業の承継・法人化)など、需要が伸びる分野を新聞やニュースから探します。
- 自分の経歴:前の仕事の業界の許可や手続きは、専門用語や慣習がわかる分、お客様に信頼されやすい強みになります。
- 覚えやすい業務から:自動車の手続きのように、役所に確認しながら進めれば大きな失敗になりにくい業務は、実務に慣れるための入口になります。
※制度や手数料などは変わることがあります。手続きの最新の内容は、各機関の公式の情報でご確認ください。


